「特許は取ったが、それが事業にどう活きているか分からない」――中小・ベンチャー企業の経営者から、こうしたご相談を受けることが少なくありません。

知財は本来、経営の意思決定を支える強力な武器です。しかし実務の現場では、知財が経営から切り離され、「形式的に出願しているだけ」の状態に陥っているケースが目立ちます。本稿では、私がこれまで関わってきた100社以上の支援経験から、特に頻出する3つの落とし穴をご紹介します。

落とし穴1:「特許を取ること」が目的化している

最も多く見られるのが、出願件数の多さを誇りつつ、その特許がどの市場で・どう収益化されているかを誰も説明できないケースです。特許は、競合の参入を防ぐ・ライセンス収入を得る・交渉カードとして使うといった「使われ方」があって初めて価値を生みます。

具体的には、出願時点で次の3点を経営者と知財担当者の間で必ず確認すべきです。

  • この特許が守るのは、どの製品・どの市場か
  • 競合他社の特許状況(クリアランス)を確認したか
  • 3年後、この特許をどう使うつもりか

落とし穴2:ノウハウと特許の使い分けができていない

すべての技術を特許化すべきとは限りません。特許は公開と引き換えに独占権を得る制度であり、リバースエンジニアリングが困難な製造ノウハウなどは、むしろ秘匿管理(営業秘密)で守るほうが合理的です。

私が関わったある化学系のベンチャーでは、製造プロセスの全工程を特許出願しようとしていました。しかし、競合がその特許を見ても再現が困難な部分は、あえて出願せず秘匿することを提案しました。結果として、競合の追随を10年以上遅らせることができました。

落とし穴3:海外出願戦略がない

「日本だけで出願していれば良い」と考えている経営者は今でも多くいます。しかし、サプライチェーンがグローバル化した現在、日本の特許だけでは事業を守れないケースが増えています。

例えば、製品を中国でOEM生産している企業が、中国に出願していなければ、現地で模倣品が作られても権利行使ができません。出願コストは決して安くありませんが、進出予定国・主要競合の生産拠点国・主要市場の3つの観点から、戦略的に出願国を選定すべきです。

まとめ:知財を「経営の意思決定の言葉」に

知財は法務や知財部門だけが扱うものではなく、経営戦略の重要な構成要素です。出願件数や登録件数といった指標ではなく、「事業にどう貢献しているか」を経営層が常に問い続けることが、知財を真の武器にするための第一歩となります。

本記事の内容について、あるいは個別の知財戦略に関するご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。